◆1999年2月第4週のぶりてんコラム◆




2月23日号 NO.219
『NYウエイター物語』〜シーバス女2〜
 「じゃあ、そろそろ始めるか」
 そう言いながらメグロ氏が何かを説明し始めようとした時、アイツが戻っ て来た。ハイネケン女をシーバス女に変えてしまったアイツだ。
 彼はカウンターの横をゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。おそらく 電話をかけるために外に出ていたのだろう。
 私は慌ててシーバス女の表情を追った。どんな目でこの男のことを見てい るのか。
 彼女はじっと彼の後ろ姿を見つめていた。いや、それは「にらみつけてい た」と言ったほうが的確な表現かもしれない。
 「おい、いいか」
 メグロ氏が私に聞いた。
 「あ、はい」
 私はメグロ氏のほうを振り向いた。その時、アイツが私たちの横を通り過 ぎた。
 メグロ氏の視線が彼を追う。そして彼は、その視線をすかさずシーバス女 のほうに切り返した。私もそれに続いた。
 彼女はまだその男の後ろ姿をにらみつけていた。横のウーロン茶男も彼女 の視線の方向に気がついたようで、時々自分の”女”を泣かせたアイツの背 中をチラチラと見た。
 一体何があったのか。昔、あの男にふられでもしたのだろうか。
 彼女はもう泣いてはいなかった。そして目の前のシーバスの水割りをつか み、それを口に運んだ。爪のピンクがやたらと派手だった。
 「まったく、あの連中は何考えてんだかよ」
 メグロ氏が小さな声ではき捨てるように言った。
 「え? 誰がです?」
 「あの女みたいな連中よ。結婚してる男と付き合って、何がおもしろいん だか・・・」
 「・・・・」
 「47丁目にスシヨシって寿司屋があるだろ」
 「はい」
 「あの男は、あそこにはヨメさんと子供連れて行くらしいぜ。ヨメさんの 実家がどえらい金持ちで、しっかり尻にしかれてるって話よ」
 「なんか想像つきますね」
 「でも、さすがに向こうに不倫相手を連れてくわけにはいかないだろ。板 前とかヨメさんのことよく知ってるしよお。だからうちに来るらしいぜ。ス シヨシのウエイターがそう言ってたんだ」
 「そういう人って多いんですか」
 「そういう人って・・・」
 「いや、寿司屋を目的によって使い分ける人です」
   「目的ねえ・・・。そんなに多くはないけど、いることはいるな」
 「奥さんにはわかんないんですかね」
 「さあね。駐在員たちの感覚はオレにはよくわかんねえな」
 「メグロさん、お客さん入ったよ」
 カヨちゃんが言った。
 「ちょっとここにいてくれ」
 そう言ってメグロ氏はおしぼりの準備を始めた。
 ステーションの横のテーブルにアメリカ人4人が座ろうとしていた。
 ふとシーバス女を見ると、彼女は、右手にからっぽのグラスを持って、 それを左手で指差しながら、担当のチヨさんに「もう1杯」とオーダーし た。
 「ボクも」
 となりの男が言った。
 「ウーロン茶で?」
 チヨさんが確認のために聞いた。
 「はい」
 男はそう答えると、残っていたウーロン茶を一気に飲みほした。
                      ひろ
                   

「ぶりてんNuts」編集部


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