◆1998年9月第3週のぶりてんコラム◆




9月14日号 NO.182
『NYウエイター物語』〜寿司政の人々8〜
「ひろくん、今日はじゃあ、メグロさんに付いてもらおうかな」
権藤さんが言った。
「はい?」
「うちってさあ、最初の日は他のウエイターに付いてもらうのよ。いきなり お客さんにサーブするわけにもいかんしね。あれ、メグロさんは?」
そのメグロと呼ばれる中年男性は、すでにそこにはいなかった。
「ちょっと待ってよ。メグロさーん」
権藤さんはそう言いながら、キッチンと思われるところに入っていった。
その入り口には暖簾(のれん)がかかってて、私が立っている位置からは中 の様子はわからなかった。
「あ、メグロさんメグロさん、ちょっとちょっと」
暖簾を通して、少し小さくなった権藤さんの声が聞こえてくる。
「ですんで、今回もよろしくお願いします・・・」
「でも、店長。そろそろ他の人間にも回したほうがいいんじゃないですかね え」
「とりあえず今回まではメグロさんでお願いしますよ」
「でもねえ・・・」
「お願い! ゴンちゃんからのお願い!」
「ゴンちゃんって・・・・・・・、じゃあ、わかりました」
「ラッキー」
私は、その会話を聞きながら、少しだけ人間関係のギザギザを感じた。
「次からは、ヤマモトくんかなんかにお願いしますから・・・」
そう言いながら権藤さんが暖簾の奥から出てきた。メグロ氏もその後に続い た。
「さっき紹介したけど、こちらがメグロさん。今日はこの人に付いてね」
「はい。よろしくお願いします」
その「はい」は権藤さんに、「よろしくお願いします」はメグロ氏に向かって 言った。
相変わらずにニコニコ顔の権藤さんに比べ、メグロ氏は私の目も見ずにブス リとしたままうなずいただけだった。
このオヤジの第一印象は、ペケだった。
                      ひろ
               

「ぶりてんNuts」編集部


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