◆1998年7月第1週のぶりてんコラム◆
7月4日号 NO.162
『NYウエイター物語』〜寿司政の人々2〜
「ゴメン、ゴメン。待った?」
そう言いながら権藤さんが奥から現れた。
「いえいえ、大丈夫ですよ」
相変わらずの白衣姿に紺のズボン。
「じゃあ、更衣室を見せようか。初日だからね」
権藤サンと私は、薄暗い店内を奥へと歩いていった。
この前来た時と同じように、左右のイスの上には人間たちが寝そべってい
る。彼らを起こさないようにして、私たちはそろそろと歩いていく。
寿司カウンターを通り過ぎ、面接をした座敷の奥を左に曲がると、そこに
は地下に下りる階段があった。薄暗い店内とは対照的に、地下からは明かり
がもれていた。
階段を下りながら権藤さんが小声で言った。
「さっき会った人、トシ子さんっていうんだけどさ、ちょっとね・・・」
「え? ちょっと何ですか?」
私は権藤さんが言わんとしていることをなんとなく理解しながらもイジワル
にそう聞いた。
「だからさあ、個性的っていうの。アクが強いっていうかさあ。当人は別
に悪気があるわけじゃない・・・やっぱあんのかなあ、悪気がねえ・・・」
権藤さんは、自問自答するようにブツブツと小声で言った。
「なんか分かる気がします」
私はガメラの姿を思い浮かべながらそう言った。
「だろ。分かるだろ。そうなんだよなあ。こっち、こっち」 階段を下り切
ると、そこにはかなり広いスペースが広がっていた。ちょうど店内のスペー
スをそのまま地下に移したぐらいの広さだった。
その空間の一番奥にロッカーが並んでるのが見える。右手には人が出入り
できる冷蔵庫がある。左手には醤油やら海苔やらが乗った棚がある。
「ここが一応、オトコ用の更衣室。更衣室ってほどのもんでもないけどね」
それは完全にオープンスペースの更衣室だった。20コほどの縦長のロッ
カーが正面と右手の壁に並んでいた。その右手のロッカーの前にある小汚い
一人座り用のソファーに誰かが座っている。
「これがロッカーで・・・、ついでに紹介しとこか。ボブちゃん、ボブちゃ
ん、おい、ボブ!」
そのボブと呼ばれた見た目メキシカン系の人物は、面倒くさそうに耳から
ウォークマンのイヤホンをはずし、「はあ〜?」という顔をした。
手に持ったイヤホンからは、ヒップポップが流れてくる。 「ディス・イ
ズ・・・なんて呼んだらいいんんだっけ?」
「ヒロでいいです」
「ヒロ、ディス・イズ・ヒロ。こっちがボブちゃんです。思いっきりメキシ
カン顔だけど、中国人だよ。うちのバスボーイ」
「中国人で"ボブちゃん"なんですか」
「Yes」
そう言って、ボブちゃんは、上半身だけ起き上がり、右手を差し出した。握
手した時、彼は右目でウインクした。
「Nice to meet you」
私は彼のウインクに答えるようにして、そう言った。
ボブちゃんは、私がニューヨークに来て初めて身近に遭遇したヒップポップ
なチャイニーズだった。
ひろ
7月3日号 NO.161
『ニューヨーカーへの道』〜学校へ行こー9〜
「ニューヨークで大学に通いたいわ」と思ってる日本人の中には、以前日
本の大学に行ってた人がかなりおったりするのであります。
日本の大学を卒業してたり、見事に退学してたり、いろんなパターンがあ
るんですが、そういう人たちにとって、ニューヨークの大学に入る際に最も
重要なポイントになるのが、日本の大学の単位をどのくらいこっちに持って
これるか、ということなのであります。
新しく入る大学側に日本からの単位をいっぱい認めさせることができた
ら、そりゃアナタ、幸せじゃないですか。だって、そんだけ卒業が早くな
るってことでしょ。授業料だってバカにならないし。
ここに私の友人がおります。以前、日本の大学に通っておりまして、その時
の専攻は海洋生物学でした。しかしながら、この人物、114単位をGetしな
がらも、その日本の大学を見事にやめてしまいまして、ニューヨークにフラ
リとやってきたのであります。
ところが、ここに住んでいるうちに「大学が私を呼んでるわ」とほざき始
め、結局再び大学に通うことにし、ニューヨークの大学にアプライしたので
あります。
皆さんもご存じの通り、こちらの大学は非常に入学しやすかったりします
ので、こういういい加減な人物でも入れてくれるところはありました。で、
彼(男性です)は、めでたくある大学に入学したのであります。
ちなみに今回の専攻はジャーナリズム。
彼は一応日本に114単位の貯金があります。お金のない彼は、できるだ
けサッサと大学を卒業するために「日本の貯金をどっさりこっちに持ってこ
なくちゃダメだわ」と考えました。
でも、昔の専攻は海洋生物学。そして今はジャーナリズム。この2つをど
うにかやって関係させて「だから単位いっぱい認めてね」と大学側を説得せ
ねばなりません。
そこで彼は考えました。
「海洋ジャーナリスト」
このアイデアを持って、彼は大学の関係オフィスを回りました。
「私、実をいうとクストーさんみたいになりたいんですよ。でも、ボクの
場合は画像じゃなくて文で勝負したいんです。だからジャーナリズム。やっ
ぱ両方勉強する必要がありますよね。いや〜、海が呼んでますよ。はっはっ
は」
てな具合です。
結果として、彼は日本の114単位のうち約80単位をアメリカに持ち込
むことができました。
この成果をグッドと見るかノー・グッドと見るかは意見の分かれるところ
ですが、こちらの大学を卒業するには通常130単位ぐらい必要ですから、
130−80=50単位で、彼はあと50単位取れば卒業できるのでありま
す。
そして、彼が80単位を持って入学して、5回目の夏を迎えようとしてお
ります。でも、彼はまだ卒業しておりません。
要するに、アホはどこに行ってもアホなのであります。
はい。
徹
6月29日号 NO.160
『ニューヨーカーへの道』〜学校へ行こー8〜
ニューヨークの大学にもいろいろあります。
コロンビア大学、ニューヨーク大学、ハンター・カレッジ、バルーク・カ
レッジ、ラガーディア・カレッジ、シティ・カレッジなどなど。
最初のふたつの大学は、私立になります。他はすべてニューヨーク市立大学
を構成するカレッジです。
上記の大学は、ニューヨーク市内にバラバラに散らばってあるのですが、コ
ロンビア大学とシティ・カレッジの場合は、同じ地下鉄1、9ライン沿いに
ありまして、駅も2つしか離れてません。
ちなみに、コロンビア大学が116丁目。シティ・カレッジが137丁目に
なります。
ところが、このふたつがかなり違うんですよね。
まあ、私立と市立ですから、ある意味違って当たり前なのですが、同じ地下
鉄のライン上にあるもんだから、その違いがやたらと目立ってしまうのであ
ります。
例えば、ミッドタウンから1番ラインに乗ったとします。
地下鉄の中には、いろんな人種がいるはずです。
白、黒、茶色、黄色などなど。
でも、よ〜く見てますと、72、86、96とストリートの数が上がるに
従って、車内の白い人々の割合が下がっていきます。
そして、116丁目で白い人々が一気に降ります。ついでに、比較的こざっ
ぱりした有色の人々も降ります。つまり、コロンビア大学の学生さんたちな
んですね。
116丁目以降、車内に残されるのは、有色、特に黒い人たちと茶色い人た
ちが多いです。でも、黄色い人もいたりします。シティ・カレッジには、中
国系の学生さんがたくさんいるのです。
さて、137丁目に着きました。そこでは、若めの有色の人々がどっさり降
ります。116丁目で降りる人々と比べると、やはりなんとなく垢抜けない
若者たちです。どう見ても金持ちそうには見えません。
「コロンビアに通う学生たち=白くて金持ちで頭がいい」「シティ・カレッ
ジに通う学生たち=色がついてて貧乏で頭が悪い」というようなステレオタ
イプを作るつもりはありません。ただ、その辺りでの地下鉄の乗り降り風景
というのが、あまりにも露骨で、思わず笑っちゃいそうになるのでした。
でも、中には、シラーっとコロンビア大学の駅で降りて、これまたシラーっ
とコロンビアの図書館で我がもの顔で勉強するシティ・カレッジの学生もい
るようです。
逆のケース、つまりコロンビアの学生がシティ・カレッジの図書館に行って
勉強するってのは、ほとんど皆無に等しいですね。
そういうわけで、皆さんもお時間がありましたら、地下鉄の1番か9番に
乗って、その辺りに行ってみてください。きっと「あー、なるほどね」と思
われるはずです。
ちょっと物悲しさも漂っちゃうけど、これも現実の断片なのであります。
徹
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