◆1998年4月第5週のぶりてんコラム◆




4月29日号 NO.142
『たわごとコラム』
継続は力なり。
先週の土曜日の話である。
セントマークスのセカンドとサードの間、「焼き鳥大将」の隣りに小汚ない ベーグル屋がある。
その日の朝、かみさんがベーグルをおごってくれるというので、ノコノコそ のベーグル屋までついて行ったのである。
店に向かう途中でかみさんが言った。
「あそこの店員、ふざけてんのよ。調理する時って、ホントはいつもビニー ルの手袋つけとかないといけないのに、ぜんぜんやってないんだから」
「あっそう」
「だから、あたし、行くたんびに言ってやんの。”ねえ、ちょっと。手袋つ けてからやってよね”って」
「は〜」
さて、店の中。
かみさん、カウンターにてオーダーする。
「バター塗ったベーグル、ふたつちょうだい」
そのパキスタン系の店員さん、かみさんの顔を見る。
すると、彼はそそくさとビニールの手袋をつけ始めたのである。
「ふふふふ。覚えてたわね。グッド、グッド」
かみさん、満足そうである。
ベーグルの用意ができて、彼はそれを持ってレジのところへと歩いて行っ た。
「2ドル16セント」
そう言った彼にかみさんは5ドル札を渡した。
すると彼はビニール袋をした左手でその5ドル札をしっかりと受け取り、次 に同じ左手で1ドル札を2枚数え、そのままかみさんに手渡した。
かみさんは何も言わなかった。
店を出るのと同時にかみさんが言った。
「ねえ、見た? 手袋した手でお札数えてんのよ。まったく、なんのために 手袋してんだかわかったもんじゃないわよ」
「ごもっとも」
「今度、また言わなくっちゃ」
一難去ってまた一難。
あのパキスタン系の店員さんは、再びうちのかみさんから教育的指導を受け ることになるだろう。
かみさんは、彼がそれを理解するまできっと指摘し続けるはずだ。
「継続は力なり」
そんなことを思った、よく晴れた土曜の朝のセントマークスだった。
                     ひろ



4月27日号 NO.141
『NYウエイター物語』〜寿司政3〜
そこは座敷だった。
「上がっていいですよ。でも靴は脱いでね」
「あ、はい」
靴紐をとく。
しゃがんだ時、畳の匂いが漂ってきた。
懐かしい匂いだ。
その部屋は8畳ほどの大きさだった。入り口から正面の上座には花がかざっ てある。
「失礼します」
足で踏む畳の感触。
「そこ、そこ座っていいですよ」
部屋の真ん中にあるテーブルに座りながら権藤さんが指差して言った。
テーブルの下はホリゴタツ状になっていた。
「今日は急にお願いしてゴメンナサイ。ちょっと人が足りなくてね。権藤と いいます」
「はじめまして。竹中と申します」
「履歴書って、お願いしましたっけ? あ、今日は持ってないとか言ってま したよね」
「スイマセン。今度持って来ますんで・・・」
「いやいや、急にお願いしたのはこっちのほうだから。気にしないでくださ い。あ、これこれ、忘れるとこだった」
権藤さんは、テーブルの上に置いていた紙袋を開け、その中に手を差し込ん だ。
「コーヒー飲みます? これミルク入ってんだけど大丈夫かな」
袋の中から出てきたのは、ハートマーク入りの「I LOVE NEW YORK」の紙 カップだった。
「どうもスイマセン。いただきます」
「どうぞ、どうぞ」
物腰の柔らかい人だった。おそらくこの人が店長だと思うが、もしそうなら 私が描いてた寿司屋の店長像とはかなりかけ離れた人物だった。
「いや、最近、うちのウエイターの子が辞めちゃってね、それでそのかわり を今探してんだけど・・・」
そう言いながら、権藤さんはズボンのポケットから4つ折りにした紙を取り 出した。
「え〜と、今、とりあえず、1、2、3、4、5、6、7、8、9。9人か な。ディナーは9人いるんだけど、もうひとり男が欲しくて・・・あ、うち 今探してんのディナーができる人なんだけど、それって大丈夫?」
「大丈夫です。そのほうが私もいいです」
「週に何回入れるかなあ」
「5回は行けると思います」
「5回か、いいねえ」
権藤さんは私を見ながら嬉しそうに笑った。
                        ひろ



4月26日号 NO.140
『ニューヨーカーへの道』〜学校へ行こー3〜
ニューヨークで英語学校に通うほどアホくさいことはない、という話があり ます。英語学校に通う日本人が多すぎるのですね。
クラスで、右を向いても日本人、左を向いても日本人、その中でなんで私は 英語しゃべってるわけ?という疑問に襲われることもあるらしいです。
「英語を勉強するには地方が一番」という意見をよく聞きます。まわりには イエロー・ピープルはほとんどおらず、つまり白黒の世界になります。
その中で英語漬けの生活を送る。確かに英語をしっかり勉強するのであれ ば、そのほうがベターでしょう。
ただ、ニューヨークの英語学校にもいい点はあります。いろんな日本人と出 会えるのです。
日本人と出会うためにニューヨークの英語学校に通う。
奇妙なサウンドがありますが、私はそういう目的意識もあっていいと思いま す。
ニューヨークの英語学校に通う日本人には、いろんなタイプがあります。
「日本の会社でOLやって早5年。なんか満たされないものがあったの。だか ら思いきって会社辞めて、ニューヨークの英語学校に通うことにしたの」タ イプ。
「日本でダラダラしてるのもなんだから、ニューヨークに来ちゃった。ビザ の関係で学校に通うことになって、とりあえず英語学校に入ったってワケ。 勉強は嫌いだけど、まあビザのためだからしょうがねえよね」タイプ。
「日本で高校卒業して働いてたんだけど、こっちで自分の専門の勉強したく て、まずは英語を勉強するために英語学校に入ったんだ。大学にアクセプト されるまでは、ここで英語の勉強してると思う。ねえ、どっか安い英語学校 知らない?」タイプ。
「ニューヨークで暮らすことが昔から夢だったの。もういい齢だし、そろそ ろやらないと手遅れになっちゃうから、とりあえず来たのね。滞在予定は半 年。その間、思う存分ニューヨークを楽しみたいわ」タイプ。
「最初は、なんとなくニューヨークに来たんだけど、同じレストランで働い てる子が、夜バイトしながら大学に通ってるのを見て、自分もなんか勉強し たくなっちゃって。日本にいた頃は大学に通いたいとも思わなかったのに不 思議なもんだよ。今、TOEFLの点数上げるために猛勉強してるんだ」タイ プ。
「こっちに駐在で送られてきたのはいいけど、もう1回英語をしっかり勉強 したくてね。夜のクラスに通ってるんだ。周りは結構若い子が多いけど、み んないろんなバックグラウンドがあっておもしろいよね。会社じゃ会えない もんね、こういう人たちって」タイプ。
わたくし、東京で2年ほど暮らしたことがあるのですが、あそこは人と知り 合うのがホントにむずかしい街でしたね。また、知り合ったとしても、つる むのは同じ世代の人たちばっかり。バラバラの人種にドサッと知り合うって ことはほとんどなかったのであります。
そういう意味で、ニューヨークの英語学校というのは、いろんな人と知り合 えるという点においてはエクセレントなのではないでしょうか。
海外に出ているせいで、出会い後のキズナもなかなか強いものがあり、お互 い別れ別れになったあとも、付き合いが続いたりすることも結構あります。
「ニューヨークに行ってまで、なんで日本人と知り合う必要があるわけ?」 という意見もあるでしょうが、そういうあなたも「人との出会い」を求め て、日本で切手収集のサークルだとか「ガンダム」のファンクラブなどに入 会しませんでしたか。しませんでしたね、はい。
たとえが悪すぎました。
でも、いろんな人と知り合うために、クラブだとかサークルに参加する人は 日本にも大勢いるわけでして、それを単にニューヨークでやってるだけなの よ、と考えれば、「ニューヨークの英語学校で日本人の友達作り」案もそれ なりの説得力を持つのではないでしょうか。
持ちませんか?
さみしいヤツだなあ、キミは。
                      徹

「ぶりてんNuts」編集部


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