◆今1998年2月第3週のぶりてんコラム◆




2月20日号 NO.109
『ニューヨーカーへの道』〜入国のカタチ4〜
以前お話ししました「ビザ・カースト制度」についてもう少し語ってみたい と思います。
その時にご説明しましたように、現在ニューヨークあるいはアメリカに住む 日本人の間には、ビザの種類による差別主義みたいなものが暗黙の了解的に ただよっております。
でも、差別はやはりいけません。
そこで、その解決策を考えました。
「ビザのこと聞いちゃイヤイヤよ」作戦。
ビザのことに関する質問を全面的に禁止してしまうのです。
こちらアメリカで、初対面の女性に「よっ、ねえちゃん、トシいくつや」な どと質問するような男は、社会から抹殺されてしまいます。このビザに関す る質問も、タブー度をそのレベルまで引き上げてしまうのです。
しかしながら、すでにニューヨークに住んじまってる日本人の皆さんにそん なこと言っても、「やなこっちゃ」で終わってしまいます。
そこでですね、まず手初めにニューヨークに来たばかりの方々にそのことを 学んでもらおうではないですか。
さて、今ここではパーティが行なわれています。
参加者のひとりであるタナカくんは、先週ニューヨークに来たばかりです。 一応、F-1ビザを取ってきたのですが、この先のことも考えて、ビザのことに ついていろいろと聞いてみたいことがいっぱいあるのでした。
で、タナカくんは、そこにいたある日本人女性に声をかけ、なんだかんだ話 しながら、隙を見てビザのことを聞いてみました。
「あの〜、今どんなビザ持ってるんですか」
「な、なんですって。あなた、よくそんなこと聞けるわね!」
「え? いや、ただ・・・」
「ちょっと失礼よ!」
「どうしたの?」
「この人、いきなりビザのこと聞いてくんのよ」
「ホントに〜?」
「いや、ただボクは・・・」
「なんか気分悪いから私帰るわ」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださ・・・」
「私も帰る」
「え、え、え〜?」
「オレも」
「ボクも」
「ワシも」
「な、な、なんで、どうして、ボクが何を・・・」
「キミのせいでみんなか帰っちゃったじゃないか。トットと帰ってくれ!」
「いや、どうして、なんで、やだ・・・」
「バタン!」(とドアの閉まる音)
タナカくんがトボトボ帰ったあと、他のみんなは再び戻ってきて、乾杯しま す。
「いや〜、おもしろかったなあ。ハッハッハ」
さて、誰から始めましょうか。
                       徹



2月19日号 NO.108
『たわごとコラム』
いや〜、最近32になったんですけどね、ここまで来ても自分のことぜんぜ ん分かってないなって思うんですよ。
え? それが、ついこないだまでは結構分かってたつもりだったんですけど ね、分かってなかったんですよ、これが。
でもね、ちょっとは見えるようになったんですよ。よくココロ的な間違いや るんですけど、それに見覚えっていうか、やり覚えがあったりして、「この まま行ったら同じことやっちゃうな」って気持ちが走ったりするんですね 〜。
そんな感じって分かります? 分かんない? まあいいけどね。
だからね、今まで何やってたのかなーって思うわけ。
ニューヨークってのは、物事考えさせられるところだし、・・・なに、そう でもないって? いや、そうだよ。考えさせられるよ。
だから、まあ、なんてーの、自分のこともしょっちゅう考えてたはずなんだ けど、これだもんなー。まいるよね。
で、あんたいくつ? 25? あそー。
その頃って人生がぐっと動いたりとか、自分が20代前半とえれえ変わって ることにふと気づいたりするのよね。
いい時期にニューヨークにいると思うよ、おじちゃん。
あ、いい、いい。ビール自分でつぐから。人につがれるの嫌いだから。そ う、これホントなの。おじちゃんも人にはつがないからね。自分でついで ね。
で、何食べる? 今日はカツカレーの大盛りにしようかなあー。ここのカ レー、この前食ったら結構おいしくてさあ、値段も5ドル50だしね。
よーし、カツカレーでいこーっと。
ところでさあ、今日は何の話するんだったっけ? あ、進路の話ね。今、 25っていったよね。
おじちゃんが25の頃はねえ・・・・・・・
そうやって暮れる日もあるニューヨーク。
                        ひろ



2月17日号 NO.107
『NYC Traffic Jam』
それは人の注意を引くのに十分な光景だった。
実際、数人がその少女を心配そうに眺めていた。そのうちの1人、 中年の東洋人男性がポケットの中から1ドル札の束を取り出し、数 えもせずコップの中に入れた。
少女はThank youとは言わなかった。言えなかっただけかもしれなか った。ただ、もうそんなことはどうでもよかったのかもしれない。
黒ずんだトレーナーとジーンズをはいた少女は地下鉄の駅の構内に座 り込み、上半身を壁にあずけていた。その眼は投げ出した手足の間に 置いていたコップを漠然と見つめていた。
いや、たぶん視線の先にそれがあっただけなのだ。
まわりにいた人々も、ただ呆然とその少女を見守っていた。彼らは、 暖かい食事の待つ我が家へ帰ろうと、地下鉄の駅に着いたところで彼 女を見つけた。そして自分の意志でもないのに、足が動かなくなった 。
直感的に、彼らはその子に対し何もできないことを知っていたのだろ う。いくらお金をあげたところで、そのアフリカン・アメリカンの少 女が、細い手足とは対照的に大きく膨れたお腹をしたまま、この冬を 越せるとは到底思えなかった。
その子は、12、3年の人生のほとんどを地下鉄の闇か、路上のどち らかですごしたに違いない。母親の顔も、温かさも覚えてないかもし れない。その子は生きる楽しみを覚える前に、生きることを放棄した ように見えた。
明るい地下鉄の構内に、ぽっかりとそこだけ異空間が出現したような 錯覚にとらわれる。この子が今まで生きてきたその空間は、物質的に はすぐそこにある。しかし、周りにいた人々にとって、それは近いよ うだが、決してたどり着くことはできない場所なのだ。
彼らには帰る家があり、暖かい食事もあれば、心地よいベッドもある 。寝ているときに強姦されることもなければ、その結果小さな生命が お腹に宿ってしまうこともない。
結局、世界がちがうのだ。
今まで行われてきたどんな議論も、その子の前では何の効力もなかっ た。いくら「彼らに働く気がないからだ」、「社会構造が原因だ」と 語ったところで、しょせん机上の空論なのだ。
現実問題として、彼女はそこにいた。
人々は、ただそれを眺めていた。何をするわけでもなく、何ができる わけでもなく。
1人、また1人とその場を離れていく。もうすぐ、誰もいなくなるだ ろう。
家に帰り暖かい食事を目の前にすれば、その子のことなど忘れてしま うに違いない。彼らは、翌日には今までと全く同じ生活に戻っている のだ。
そして、また同じような光景を目にするまでは、その日のことなど思 い出すこともないだろう。
その子のことなど思い出すことも、ないだろう。
MediaBlitz



2月15日号 NO.106
『NYウエイター物語』〜仕事探し3〜
ヤシロさんの鼻の右穴からハナゲが1本出ていた。
「あの〜、これが履歴書になります・・・」
私はその微妙な1本の毛が気になりながらも、持参した履歴書をヤシロさん に差し出した。
「うちのことは、OCSで見たのかな・・・」
履歴書に目を通しながら、ヤシロさんが聞いた。
「あ、はい。キッチンヘルパー募集って書いてあったのを見て電話したんで す。」
彼はうなずきながら、履歴書の左面、つまり経歴が書いてある欄から、「得 意な学科」や「趣味」などのあるその右面に目を移した。
そして、その目がある1点でピタリと止まった。
「ムエタイ? ムエタイってなに?」
そう言って、ヤシロさんは私を見た。
「ムエタイっていうのは、タイ式キックボクシングのことです」
「それ、やってるの?」
「あ、はい」
「そんなのどこで習ったの?」
「え? え〜とタイで習いました」
「タイって、あのタイ?」
「そうです。あの国のタイです」
「へ〜」
ヤシロさんは、履歴書のおそらく「趣味」の欄に視線を戻した。
「サンシン? このサンシンっていうのは?」
「沖縄の三味線です。蛇の皮でできてるヤツで、こんな感じに・・・」
と言いながら、私は壁際に置いていたサンシンのケースを取り、テーブルの 上に置き、パチンパチンをロックをはずし、カバーを開けた。
「ああ、こういうのね」
ボーン。
私は一番太い弦をはじいてみた。
一番近くにいた少し痩せ気味のウエイターがこちらを振り向いた。
「ふ〜ん」
ヤシロさんは、大して感心するわけでもなく、かと言ってバカにするわけで もなく、ただただ冷静にそう言った。
私は慌ててサンシンのケースを片づけようとして、テーブルの上のお茶を倒 しそうになった。そして、再びケースを自分の右横に置いた。
「で、仕事のことなんだけど・・・」
話は、いよいよ本題に入ろうとしていた。
                         ひろ

「ぶりてんNuts」編集部


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