◆1998年11月第3週のぶりてんコラム◆




11月19日号 NO.200
『たわごとコラム』
世の中にはいろんな商売がある。
サウナもひとつの商売であることは間違いない。
ただ、私がその時立っているのは、どう考えても普通のサウナがあるような 場所ではなかった。
日曜日の午後2時過ぎ、私はコンピューターのキーボード叩きを一時中断 し、イースト・ビレッジの我がアパートを後にした。
目的地は24 Mercer street。この住所なら、Canal Streetのすぐ上だろ う。
そして約15分後、私はその「24 Mercer street」の前に立っていた。
そこの5階に、例の男性専用サウナ、「富士山」があるはずだった。
しかし、それは見た目には単なる倉庫だった。
スチール製のドアはかたくロックされていた。アパートによくある呼び鈴も 見当たらない。それはまるで訪問者を拒絶するかのようだった。
「ここにサウナがあるんですか・・・。それはどんなサウナなんでしょ うか・・・」
その時である。ブザーが鳴る音がした。
それは、ドアのロックを解除するブザーだった。誰かが私の存在に気づい て、ドアを開けようとしているのだ。
よく見ると、ドアのずっと上にカメラが設置してある。あれがそうか。
ロック解除のブザーは鳴り続けている。
私は、そのドアを開けて中に入った。
正面の壁の上方にカメラがあった。
「ハロウ〜」
強力なアジアなまりの英語がどこかから聞こえてきた。誰かがスピーカーを 通して話しているのだ。
左手にエレベーターがある。
ボロボロだ。
まわりを見回しても、どこにも「富士山」とは書いてなかった。いや、 そこにはなんの表記もなかったのだ。
「ハロウ〜」
声のヌシは挨拶し続けている。
もう一度、私はまわりを見回した。
そこはどう考えても、”普通”のサウナがあるようなビルではなかった。
「ダメね」
私はボソリとそうつぶやいた後、壁のカメラに向かって言った。
「ノー・サンキュー」
私は、ドアを左手で開けて外に出た。
「え〜?! なんで行ってみなかったの〜?!」という声が聞こえてくる。
そうなのである。行ってみればよかったのである。
これがNuts絡みであれば、私はきっと「富士山」に潜入したと思う。でも、 今回はあくまでもお仕事に一環として行ったもんだから、「富士山」の正体 が大体わかった時点で引っ返してしまったのだ。
深く反省。
その2日後、中国人の韓さんから仕事場に電話がかかってきた。
私が、「韓さん、私、”富士山”の住所に行ってみたけど、あれダメよ」と いうと、韓さんはアッサリ、「そうですか」と言った。
それだけである。
彼は、なんの説得も言い訳もしなかった。
だから私もなんだか拍子抜けして、ただなんとなく「がんばってね」とだけ 言った。
韓さんは「富士山」と「薔薇」の広告を載せくれる新聞・雑誌を探して、 今日もマンハッタンをさまよい歩いているに違いない。
でも、やっぱりネーミングとして、”薔薇”はヤバイと思う今日この頃 なのである。
                        ひろ



11月17日号 NO.199
『たわごとコラム』
世の中にはいろんな人がいる。
そんないろんな人の中のひとり、中国人の韓(カン)さんは片言の日本語を 話しながら、ある日私のオフィスに現われたのである。
彼は韓国系の広告代理店で働いている。
日本語は中国にいる頃に勉強したらしい。その他、韓国語も流暢に話したり する。
でも、英語はほとんど話せない。
その辺がニューヨークらしくていいわね。
今、私は、ミッドタウンのある日系新聞社の広告部で働いている。韓さんが 私のオフィスを訪れたのは、自分のクライアントの広告を我が社の新聞に載 せるためだった。
応対に出た私と韓さんの応接間でのカンバセーションがスタートした。
「これ、私のお客さんの広告。これ、この新聞に載せてください」
「ちょっとその広告見せてもらえますか」
「そうですか。見せますか。見ますか。これです。どうぞどうぞ」
「ん? サウナですか」
「そうですか。サウナです。名前は”富士山”といいます」
その5センチ四方の広告には、確かに「富士山」と日本語で書いてあった。 ただそれは、下書き風にえんぴつで書いてあるだけだった。そして、そこに はもうひとつ同じ大きさの広告が載っていた。
「もうひとつあります。”薔薇”といいます」
「”薔薇”ですか」
「そうですか。サウナです。同じオーナーです。韓国人です」
「この2つの広告を掲載したいんですよね」
「そうです。それ、私の日本語です。どうですか」
「いいんじゃないですか」
「そうですか」
「男性専用? 男性だけなんですか」
「そうです。男性専用です」
ちょっとクサイ。なぜ男性専用なのだろう。
「なんで男性専用なんですか」
「いや、男性専用」
「だから、女性はダメなんですか」
「ダメ。男性専用」
これ以上追究しても無駄と判断した私は、質問をそこで打ち切った。
広告内の住所や電話番号を確認した後、私が言った。
「では、一応お受けします」
「そうですか。そうですか」
「でもまた連絡するかもしれないので、電話番号をもらえますか」
「そうですか。私、クイーンズのフラッシングに住んでます。電話番号 は・・・」
「オフィスのナンバーはないんですか」
「私、オフィスいません。いつもお客さんところです」
「あ、そうなんですか」
「そうですか。電話番号ですか、ハイ、718の・・・・・・」
そして、韓さんは「ありがとございます」を繰り返し言いながら、うちのオ フィスを後にしたのである。
私は自分のデスクに戻り、その広告をぼんやりと眺めた。
「男性専用か。なんかおかしいよなあ。なんかクサイよなあ」
うちの新聞は、基本的に水商売関係の広告は載せないことになっている。た だ、この広告内容だけでは、この「富士山」と「薔薇」がいかがわしいとこ であるかは判断できない。
でも、いくらなんでも「薔薇」はねえだろ。
住所を見ると、「富士山」はチャイナタウン、「薔薇」はクイーンズのフ ラッシングにあった。
目の前のカレンダーを見ながら、私はボソリと言った。
「しょうがねえなあ。行くしかねえか」
「富士山」なら、自分のアパートから歩いて15分ぐらいだ。
右手で赤ペンを取り、私は3日後の日曜日のところに「富士山」と書き込ん だ。
頭の中で、ガキの頃に通った風呂屋の「富士山」を思い浮かべながら・・・
つづく。
                    ひろ
               

「ぶりてんNuts」編集部


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