◆1998年11月第1週のぶりてんコラム◆
11月6日号 NO.195
『NYウエイター物語』〜寿司政の人々13〜
アーは、私にニコリと笑いかけた。
「気に入られたかな」
メグロ氏が言った。
私は何も言わなかった。
「以上かな。あとはバスボーイだな。そんじゃ、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
最後にキッチンの人々にそう挨拶して、私たちはキッチンの入り口に向かっ
た。
その途中、私たちはアーの横を通り過ぎた。彼はシンクでレタスを洗ってい
た。一枚一枚丁寧に細かいところまで洗う手つきを見て、私は、
「やっぱゲイだからかなあ」
などとくだらないことを考えた。
先を行くメグロ氏に私は言った。
「バスボーイなら、さっきボブっていう子には下で会いましたけど」
「そうか。モハメッドは?」
「いや、その人はまだ会ってません」
私たちは暖簾をくぐって、再びフロアーへと出た。
「お〜い、モハメッド。ちょっとこっち」
店の入り口近くにあるバーにいた、白衣を着た肌の浅黒い男性に向かって、
メグロ氏がそう声をかけながら手招きした。
彼は左手に持ったちょっと大きめのトレーを、右手に持った布巾で拭きなが
ら、こちらに歩いてきた。
「新しいウエイターの竹中くんだ。よろしくな」
「ヨロシクオネガイシマス。モハメッドデス」
彼が流暢な日本語で言った。
「あ、よろしくお願いします。竹中です。でも日本語うまいですよね」
「モトモトハ、パキスタンジンナンデスケド、ニホンニスンデタコトガアリ
マス。タケナカサンハ、ニホンハドチラデスカ?」
「え、あ、熊本です」
「ア、キュウシュウデスカ。イイデスネ。ワタシモ・・・」
「いいから、そのくらいにして」
メグロ氏が遮った。
「こいつ、しゃべり出すと止まんないからな。じゃあもういいよ」
「ハイ、ヨロシクオネガイシマス」
「こちらこそよろしくお願いいします」
すでに店の奥に歩き出したメグロ氏に、モハメッドくんがトレーに隠れて右
手の中指を立てるのが見えた。
そして、目が合った私に、彼はパキスタン系のまつげの長いキラキラした目
でウインクした。
ひろ
11月4日号 NO.194
『ニューヨーカーへの道』〜NY情報収集法5〜
OCS NEWSクラシファイド欄の王者はやはり求人のコーナーなのですが、
意外な人気者としては「その他」欄が挙げられます。
というのもですね、以前ニューヨークに「AKISU」という破壊型ミニコミ
があったのですが、その発行人であるTくんがミニコミ立ち上げの時に、
このOCS NEWSの「その他」の欄に「一緒にミニコミ作りましょ」広告を
出したところ、なんと10名以上の人たちから連絡があったらしいのであ
ります。
その時、わたくし思いましたね。
「クラシファイド欄の一番最後にあるコーナーで、だれーも見てそうにな
いんだけど、ナメたらいかんよね」と。
それでは、ここでフォー・イグザンプルにOCS NEWS11月6日号の「その他」
欄を見てみることにしましょう。
まず目に付くのは、同窓会の広告ですね。明治、同志社、日大などが総会だ
とか会員募集の広告を出しております。
わたくしは、昔、沖縄の琉球大学に通っておりまして、その後見事に中退し
たのですが、この琉大の同窓会っていうのはあまり聞きません。やっぱ沖縄
から来てる人って少ないのでしょうか。でも、沖縄県人会はデカいんですけどね。
その後には、通訳・翻訳やコンピューター関係の広告が並んでおります。
で、この辺から本格的におもしろくなるのですが、次に続くのは「友達・
恋人」広告ですね。「アメリカ人の友達を作りませんか」とか「シングルズ・
パーティ」などになります。
こういうのって結構人気があって、シングルズ・パーティなんかウエィティング・
リストなんかあったりするっていうんですから驚いちゃうじゃないですか。
その後に続くものを列記しますと、
「男性フィットモデル急募」
「足心道秘術、足の裏按摩」
「腸洗浄」
「男子ヘアカット$15」
「アムウェイ」
「四柱推命、姓名判断、気学」
「通信販売の古本屋」
などになります。
そして、トドメが
「ロバートレッドフォード写真、本人サイン付き」
ちなみにお値段は、85ドル。
これって安いのでしょうか、高いのでしょうか。
でもなにやら魅かれるものはありますわな。
徹
11月2日号 NO.193
『たわごとコラム』
10月30日、ハロウィーンの夜のことである。
私は、イースト・ビレッジの日系食料品店、「サンライズ・マート」に米を
買いにいくために、セカンド・アベニューと9丁目の角を曲がり、そのまま
9丁目をサード・アベニューに向かって歩いていた。
その時である。
私の足元で何かがはじけた。
「グシャ!」
「なんだ?」とよく見ると、それはタマゴだった。
アメリカでは、ハロウィーンの時、なぜか人に向かってタマゴを投げ付ける
のである。
スッと道の反対側の歩道を見ると、モンスターの覆面をかぶった、おそらく
12、3才の男の子が、こちらをじーっと見つめながら歩いていた。
こういうときは無視するに限る。しかし、私にはそれができなかった。
私にタマゴを投げ付けたのは、多分黒人の男の子だろう。
そうなのである。ハロウィーンの夜、黒人のガキ共は、なぜかアジア人ばか
りを狙うのである。
それは私の思い過ごしかもしれない。
でも、私はそのことがここ数年気になっていた。
で、今年のハロウィーンの夜に私にタマゴを投げ付けたのも、やっぱ黒人の
ガキじゃないの。
私はそいつをにらみ付けながら、道路を横切り、彼に向かって歩いていっ
た。
お互いの間に緊張感が走る。
そいつが立ち止まった。そして私も立ち止まった。
するとどうだろう。そいつの前後左右を歩いてた約20名ぐらいのガキ共が
全員立ち止まったのである。
「ゲッ、やべえ」
私はあっという間に20人の愛らしい子供たちに取り囲まれた。
なんな仲間だったのね。
「なんだよ」
その中の誰かが言った。
私はそいつを無視して、問題の彼に向かって言った。
「おめえがやったのか?」
彼は何も言わずに2、3歩後退した。
私は他の子供たちの動きを確認するために後を振り向いた。
その瞬間、目の前にいた男の子たちのひとりが激しく腕を降り下ろすのが見
えた。
「グチャ!」
おでこに衝撃が走る。
タマゴだ。野郎、こんな至近距離から人の顔に向かってタマゴを投げやがっ
た。
「ひゃひゃひゃ」とかなんとか言いながら、ガキ共が一目散に駆けていく。
その逃げ足の速いこと、速いこと。
私は、追いかけようともせず、額のタマゴを手で拭いながら、「やられたな
あ」とひとり笑った。
あまりにも見事過ぎたのである。
すでに彼らの姿は私の視界から消えていた。
出血はしてないようだった。でも、かなり痛い。
「あ〜あ、かみさんになんて言い訳しようかなあ」
トレーナーはタマゴでグチャグチャだった。
私はおでこを擦りながら、米を買うために再びサード・アベニューに向かっ
て歩き始めた。
あるハロウィーンのはなし・・・
ひろ
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